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迷犬ゴン

ゴンとオカンと今年もまたあじさいと・・ちょっとだけオトン

ゴンという犬がいた。

メス犬なのに なぜかゴンだった。 

名無しのごんべえのゴンだった。

私が大学生の頃だった、父が事業に失敗して 東京の大田区安方町にあった大きな家から池上本門寺近くの小さな家に引越しを余儀なくされた。

家を担保に負債を清算して 文字通り父はスッカラカンになった。  

そして、新しい職場で再スタ-トする決心をしたころだった。

今まで社長だった父が 毎日荷造りの仕事で手を真っ赤に腫らしているのを見て、

私は父を尊敬した。

子供達のために、家族のために いい汗かいてる父の姿を見たからだ。

社長で金回りの良かったころの父を 私は尊敬した記憶がない。

毎晩だらしなく酔っ払い、大ものをたれ、大声で唄い、プライド高くて、意見の合わない人とは喧嘩ばかりして・・・、その分母が苦労して・・・、そんな父の日常を私は尊敬していなかった。

オレも酒飲みになったのは父の遺伝だが 小さい頃から そんなとこしか見ていなかったから オレは基本的に酔っ払いが嫌いなのだ。

ナンチャッテ、オレも酔うとだらしないけどね。

皮肉なものだ、貧乏になったとき 初めてなりふり構わず家族のために働くカッコいい父の姿を見ることができた。

やっぱりオヤジは男だぜ・・嬉しかった。

               

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ゴンは野良犬だ、テレビの人気者マサオくんによく似た大型の雑種である。

池上の家の玄関前で いつも昼寝していた。

餌を与えた、パンの耳とか ごはんのあまり物とか・・・

いつも同じところで寝ているので、なんとなく なにか食べるものをやってしまった。

この犬を飼っているという感覚はなかったのだが、 

ゴンは ついに我が家からはなれなくなった、

よほど居心地が良かったのか、食う時とうんこをする時以外は 朝から晩までいつも玄関で寝ているのである。

完全な野良犬のくせに我が家に居座っていた。

発情期になると、どこかで恋をしてきてから縁の下で出産する、それも毎年平均三~四匹も・・・仔犬の処分にこまった。

知らない人が来ても吠えることもないし、何の芸もない。

寝ることと、食うことと、子供を作るしか能がない。

なんの役にもたたないから家族の評判はよくなかったが なぜか憎めなかった。

数年後、我が家は池上から川崎市高津区の宮内へ引越しすることになった。

引越しの荷物を車に積んで いざ出発の時がきた。

ゴンはどうしよう・・・ ということになった。

彼女は玄関の前で、よだれを垂らして相変わらず寝ている。

あんな どうしようもないバカ犬は置いていこう・・・ということになった。

車は ゴンを置き去りにして走り出した。

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一週間が過ぎた。

引越しの荷物もかたづいて 生活も落ち着いてきたころだった。

母が 表で大きな声を出した。

「ゴンじゃないの! お前、どうしたの・・・・」

みんなびっくりして外に出た。

痩せて疲れ果て、ふらふらになったゴンが尻尾を振っていた。

すぐにめしを食わせた、・・・・・、

みんな 感動していた。

それからのゴンは・・・首輪を買ってもらった、犬小屋も建てた。

晴れて 正式に我が家の飼い犬としてデビュ-することになったのである。

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動物には 人間に解明できない驚異的な本能がある・・という。

犬の嗅覚は人間の何千倍とか聞くが、まさにゴンは超能力犬である。

東京大田区から川崎高津区まで 何キロあるかしらないが

しかも こっちは全員車で移動したのに、

どうやって来たのだろう・・・・・?

車は第二京浜を通り、多摩川を渡り、府中街道を走ってきた。

ゴンも同じコ-スを 臭いだけをたよりに 来たのだろうか。

道路に臭いが付くとも思えない、風に臭いが漂っていたのだろうか?

ゴンは 食うものも食わず 一週間もかけて旅をしてきたのだ。

私は今でも このことが不思議でならない。

もうひとつ感動なのは、

よほどの冒険をしてきたのだろう、よほど辛い経験をしてきたことは

ゴンのボロボロに疲れ果てた姿を見ればひと目でわかったのだが、そんな思いをしてまで 何で遥々やってくる必要があったのだろう?

ということであった。

わざわざ苦労して遠い道のりを来なくたって、今までと同じようにどこかの家に居座っていれば楽に暮らせるのに・・・・・、

それでも ゴンは来た。

ゴンにとっては 我が家でなければ だめだったのだ。

一宿一飯の恩という言葉があるが、

ゴンは 我が家族に対する恩義を 忘れていなかった。

最近では 恩を知らぬ人間が多い、義理も人情もないのが普通なくらいなのに、

あんなだめ犬が、突然奮起して死ぬほどの苦難を乗り越える大冒険をした。

能無しでも、ものすごい能力を発揮することがあるのだ。

遥々辿り着いたゴンを見て、彼女の想いを裏切り置き去りにした我々のほうが自責の心を味わうことになってしまったのである。

でも ゴンは、やっぱりゴンだった。

宮内に来てからも、相変わらず 喰って寝てばかりだった。

そしてある時 ゴンは裏の畑で 落ちていた毒まんじゅうを喰って死んだ。

(毒まんじゅうとは 昭和の時代のネズミや野良犬の誘引駆除剤)

ゴンのご遺体は 母が大好きで育てていた あじさいの花の下に埋めてやった。

あじさいの花が大好きだった母は この宮内の家で亡くなったのです。

(母のことは何度も何度も書いてきたから省略するが)

               

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四十年も昔のことなのに 今あじさいの花を見て ふと思うことがある、

ゴンは もしかして 母のあとを追ったのではないか?

毒と知りながらまんじゅうを喰って、家族の悲しみを代表して母に殉じたのか?

ソンナワケネェダロ・・・とみんなに笑われそうだけど、

ゴンならそれができるかもしれない、 あんな驚異的なことができたのだから。

私だけでもいい・・・ゴンの想いを信じよう、

ゴンの「ありがとう」を受け止めて、ゴンに「こちらこそありがとう」を云いたい。

            

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宮内のあじさいは、毎年紫の大輪を咲かせた。

ゴンの肉体があじさいの栄養に代わり、驚くほど見事な株に成長していた。

あじさいの咲くころになると、紫のあじさいの花を見ると、

あじさい柄の着物をきた母を想い出すのは毎年のことである。

そして なぜか、ゴンのことも想いだしてしまうのである。

            

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今年の梅雨は 毎日暑くてマイッタネ・・・

今日は雨の日曜日、久しぶりにプールのお風呂へのんびりしに行こう、

父と母の仏壇へ あじさいの花をお供えしよう、

それから名犬ゴンのためにも お線香を一本余分にあげよう。

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