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多摩川釣り紀行(2)

◆多摩川の思い出 

オレの釣り ホームグランドは多摩川である、多摩川へは何回足を運んだだろうか、

100回どころではない、子供の頃から数えたら、1000回以上にもなるだろうか、

多摩川のことなら 何でも知っているつもりだが、行くたびに新しい発見がある。

去年まで渡れた浅瀬が 今年は渡れなかったり、浅くなったり、深くなったり、早くなったり、ゆったり流れたり・・・、川は季節の流れとともに、形を変えるのである。

自然は 生きているのである。

オレはこの川が好きだ。

この川はオレのふるさとだ と思う。

都会の川は汚いといわれる、でもオレはこの多摩川を 汚いと思ったことはない。

アユをはじめ ヤマベ、フナ、コイ、ウグイ、ウナギ、ナマズ、モロコやドジョウ、・・・上流に行けばニジマスにイワナやヤマメまで棲息している。

一度だけ、サケに出会ったこともあった、夏の終わり頃だった、水に浸かっているオレの足にゴツンとぶつかった大きな魚がいた、サケだった。

体中ボロボロになりながら 上流へ向かって最後の力をふりしぼるように泳いで行った。

ガンバレよ・・・、応援したいような気持ちでオレは彼を見送っていた。
最近では 多摩川のアユの溯上は100万尾だという。

都会で こんなに魚影の濃い川は他にない、多摩川は清流なのである。

初めて多摩川で釣りをしたのは 小学校3年生の頃だった。

親友のキム君(木村君)と二人で 竹竿を一本とバケツを持って出かける。

多摩川大橋の下流、砂浜があって、砂の中からエサのゴカイを獲る。

それでハゼ釣りをするのである。

潮が引くと、広い砂浜にアサリが顔を出す、掘らなくても貝が出てくるのである。

バケツは そのアサリを拾って入れるためのものである。

釣れた2~3匹のハゼとバケツ一杯のアサリを持って 意気揚々と帰る、

母がそれで味噌汁を作る。

食糧難の時代だったから、獲物は必ず持って帰ったのである。

キム君とは何をするにも一緒だった、竹馬の友だ。

学校へ行くのも、帰るのも、遊ぶのも、勉強するのも、いたずらして大人に怒られるのも、

自転車に二人乗りして ドブに落ちるのも、二人一緒だった。

毎週日曜日になると 二人で多摩川へ出掛けた、

キム君は“大きくなったら飛行機のパイロットになりたい”と言う、

オレは“野球の選手になる”と言う・・・・。
川面にキラキラと輝く真っ赤な夕陽を浴びて 二人の少年は釣り糸を垂れながら遙かな夢を語り合った。

桜が満開の頃だった、ヤマベはこれから初夏に向かって産卵期を迎える

産卵の前は 特に食欲が旺盛になる、いわゆる“のっこみ”の時期になる。

ヤマベは一年中釣れるが、春(のっこみ)と 寒い冬に向かってだんだん深場へ移動する前に栄養を蓄えるため貪欲に捕食する秋が 一番釣れる時期なのである。

いつものポイントで水に入っていた。

『おーい』と オレを呼ぶ声が聞こえた。

振り返ると 60歳くらいのオッチャンが自転車を押しながら河原を歩いてきた。

自転車の荷台に竿を積んで、彼は鯉の釣り人であった。

『魚を少し分けてくれませんか、鯉の餌にするんです・・・』というのである。

『いいよ、どうせ川へ戻すんだから・・・ 』オレが無愛想に返事する。

オレはその時 鯉がヤマベを喰うことを初めて知った。

水から上がって フラシをオッチャンに渡すと、彼はニコニコしながら釣ったばかりのヤマベを袋に入れはじめた。

『わぁー、いっぱいいるね・・・、20匹くらいもらっていいですか、 これ、帰って冷凍しておくと後でまた使えるんだよ・・・、あんた よく釣るね・・・、オレ 毎日来てるから いつも見てるんだよ、こないだ奥さんと一緒に来てたでしょ・・・、

仲がよくていいね・・・、』 魚を選別しながら 気さくに話しかけてくる。

そうか、オレの釣りは観られていたのか、そういえば 先週は母ちゃんと二人で このポイントに来ていた、妻が釣りに興味を持ってくれたのは オレにとって嬉しいことだった、

自分の趣味の理解者になってくれたことが、なにより嬉しかったのだ。

『女はだめだよ、世話がやけて、面倒みるのが大変だよ・・・、』

オレは格好つけて そんな返事をした。

それから一服しながら 釣り談義が始まった、ポイントの話とか、河川の工事のこととか、

いろいろと情報交換をした。

上野の不忍池から鵜の大群が飛んできて、小魚をみんな喰って行っちゃった・・とか、
確かにそんなこともあった、鵜の大群が来るとヤマベなんかはひとたまりもない。
鵜やカモメが急降下して水面にダイブしてから 魚をくわえて飛び立つのや、白鷺が魚をクチバシにくわえて浅瀬を歩いている姿を オレは何度も見た。

一時的ではあるが、鵜が飛来した水域に ヤマベが一匹もいなくなることがあるのである。

オッチャンが言うには、オレのような釣りは 若いうちしかできない、歳をとると 鯉の投げ釣りのような 動きのない釣りになってしまう。

オッチャンの言うとおり、オレの釣りは“動”の釣りだ。

冬は水の中に入って 一点集中だが、夏場は浅瀬を歩き回る。

相当に体力を使う。

夏は脈釣りが主体である、オモリのガン玉をコツコツとずらせながら 流れの速い水底の 石の上を探っていくのである。

流芯に近いほど 大物がヒットする。

ウキ釣りのように魚が喰ってくれるのを待つのではなく、魚の鼻先にエサを持っていく、エサを喰わせにいく積極的な釣りである。

毛鉤釣りもやった、竿を正面から振り込み、下流へ扇型へ流す。

これはむこう合せである、魚が毛鉤を昆虫とまちがえて飛びついてくる。
ブルンブルンと心地よい振動が竿に伝わる。
毛鉤釣りは 夏の朝と夕、魚がライズする時間帯が一番釣れる。

一度に5尾くらい掛かることもある。

確かにオッチャンの言うとおりだ、オレはいつまでこの釣りを続けられるだろうか、

歳をとったら、リール竿を立てて、河原の草の上に寝そべって、ひばりのさえずりを聞きながら 空を見たり、オッチャンがオレを見たように 遠くの釣り人の姿を眺めたりしていたほうが のどかでいいのかな・・・・、なんて思ったのである。

オッチャンとは その後2~3度会った。

会うたびに魚を分けてやった。

お互い名乗ることもないから 名前も知らない、釣りという共通の話題だけで語り合ったのである。

多摩川では いろんな経験をした、

夏、にわか雨に降られた時、雨と晴の中間に立ったこともあった、自分が雨に濡れているのに 10m先の河原は晴れて 石が乾いているのである。

稲田堤のへんで 身長くらい伸びた草をかき分けながら歩いていたら、40~50cmほどの大きな鼠のような動物に出くわした、相手はびっくりして キーッと一声鳴いて、水の中にドボンと飛び込んで姿を消した。
オレもびっくりして足がすくんだ。

何だろう、鼠にしては大きすぎる、モルモットかイタチか、カワウソか・・・、

カワウソが多摩川に居るはずがない、
それとも河童か・・・?

昔の人は ああいうのを河童だと信じていたのかもしれない。

兎に角、わけの判らない生き物がいたのである。

多摩川には まだまだ不思議な自然が 沢山あるのだ。
自転車で関戸橋の上流、日野の浅川の方まで行ったこともあった。

川虫を採集して玉ウキでヤマベを釣った、アユまで釣れた、

アユは水底の石についた苔を食べる、川虫のような生き餌を喰う話は聞いたことがない。

自転車で多摩川の土手を乗り回していた頃は 行動範囲も広かった。

釣りが終わると、河川敷のグランドで草野球を見物したり、

夏、わざわざ自転車で会社へ行って、帰りに多摩川へ寄って、夕暮時に毛鉤釣りをしたこともあった。

多摩川へ行くと オレは少年に還るのである。
疲れを知らない子供のように、生き生きと、行動的になるのである。

1月7日、正午をまわった頃、竿を納めた。

釣ったハエは150尾を超えていた、もっとがんばれば200は確実の大漁だった。

ずっしりと重いフラシを水に入れて 魚をリリースした。

“今日は遊んでくれてありがとう・・・”

魚たちに話しかけていた、疲れは感じなかった。

家に帰ると 昭和天皇が崩御したニュースをやっていた。

オレは罰当たりなのだろうか・・・、天皇陛下が死ぬという時に、釣りという殺生をしに行っていた、でも 魚を殺してはいない、みんなリリースしたんだ。

夜、ごはんの時に酒を飲みながら、自分に都合良くいいわけをしながらニュースを見ていた。

昭和天皇は歴代の天皇の中で 一番苦労したのかもしれない。

外国と戦争して、初めての敗戦を経験したのは 昭和天皇だ、

日本国の象徴として、初めて人間扱いされるようになったのも昭和天皇だ。

貧相な ただの老人だけど、あの手を振る姿は なぜか憎めない、

日本人なら、昭和天皇を嫌いだなんていう人はいないはずだ。

みんな昭和天皇が好きなのだ。

なぜか悲しくて 涙が出た。

あんなにいい釣りが出来たのに・・・、最高の一日だったのに、

天皇とは何の所縁もないはずなのに、

悲しくて、寂しくて、やるせない気持ちだった。

日本人にとって、天皇とは 父のような存在なのだろうか・・・・、

やっぱりオレも日本人なのだ。

昭和が終わった・・・、

時代は平成へと 移り変わったのである。      つづく

                             (17224)

       

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